川瀬浩介|KAWASE Kohske

作曲家・美術家|MUSIC × ART

Muse The Chemistry (2011)

Muse The Chemistry (2011)

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 2011年7月29日〜31日、「KAITEKIのかたち」〜アートと技術の化学反応〜と題された展覧会に参加する。新作の名は《Muse The Chemistry》。 昨年末から制作を進め、今日までの間、色々なことがあった。誰もが知る「あの日」の出来事はもちろん、個人的にも…。その期間に考え、感じた全てのことが詰まった作品に仕上がることだろう。

 

 「仕上がることだろう」と、無責任ともとれる発言をしているのは他でもない。今回の作品は、実際に展示してみないと、どうなるのかわからない構成となっているのである——音楽と化学反応(BZ反応)のアンサンブル。アンサンブルといっても、各々が完全に同期するシステムを採用しているわけではない。これまでの僕であれば、そうした「人為的なスペクタクル」を追い求め、「確実に期待できるカタルシス」を再現していたであろう。しかし今回の作品は、そういうものにはしたくなかった。

 

 それは「あの日」の出来事が大きく影響していることは言うまでもないが、それ以前に、着想し始めたときに覚えた「化学のダイナミズムとは何か?」について、考察を深めたからに他ならない。 人は、サイエンスやテクノロジーを開発し、あらゆる事象を生み出してきた。それを証明するものは、「無限」を覚えるほど、数限りなく作り出された製品や技術の応用方法を提示することではないはずだ。それらの根本となる「化学変化そのもの」こそ「化学のダイナミズム」、もしくは「化学のロマンティシズム」の象徴と言えるのではなかろうか?

 「化学のダイナミズム」——それは果たして、人為的に生み出せるものだろうか?——異なる物質どうしを掛け合わせ生まれる新たな存在——その誕生の過程には、我々の手が及ばない、何か見えない大きな力による舵取りが行われているはず——ならば、設えるのは「奇跡の瞬間」を呼び起こすための環境だけでいい——自ずと、望む結果へと導かれる——その環境は、同時に、美しくなければならない——穏やかで心地よい時間を来場される皆さんに感じてもらわなければならない——そのために、自ら綴る音楽がそこにある——。

 こんな妄想じみたストーリーが、徐々に僕の心の中を支配していった。 あらゆる「偶然」も、それが起きるに至った細かい条件を一つ一つ検証していけば、何らかの法則に則り導かれたもの…と解釈できるのかもしれない。

 しかし、少なくとも僕自身は、約束されていなかった「あるとき」を、まさかこの瞬間に迎えられたという事実を、「奇跡」として捉えたい。 あるとき、ある街で、見知らぬ二人が偶然巡り会う——この作品で提示される、お互いに自律し展開していく音楽と化学反応は、そんな「未だ見ぬ二人」を表象する存在とも言えるだろう。

 ときに寄り添い、ときに離ればなれとなり、いつかまた再び巡り会う…。この、偶然が生み出す物語は、そんなロマンティックなクライマックスへと誘われるに違いない。

 こうした祈りにも似た思いを、この作品に託し《Muse The Chemistry》と命名した。

 果たして今、化学の女神は、あなたに微笑みかけるだろうか? 作品発表にあたり、どうお知らせするべきか? 考えた結果、手紙を記すことにした。ぜひ一読いただき、ご来場願えれば幸いである。

Muse The Chemistryからの手紙

Muse The Chemistry: Study

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