Muse The Chemistry (2011)
解説付きダイジェスト版 on YouTube
それは「あの日」の出来事が大きく影響していることは言うまでもないが、それ以前に、着想し始めたときに覚えた「化学のダイナミズムとは何か?」について、考察を深めたからに他ならない。 人は、サイエンスやテクノロジーを開発し、あらゆる事象を生み出してきた。それを証明するものは、「無限」を覚えるほど、数限りなく作り出された製品や技術の応用方法を提示することではないはずだ。それらの根本となる「化学変化そのもの」こそ「化学のダイナミズム」、もしくは「化学のロマンティシズム」の象徴と言えるのではなかろうか?
「化学のダイナミズム」——それは果たして、人為的に生み出せるものだろうか?——異なる物質どうしを掛け合わせ生まれる新たな存在——その誕生の過程には、我々の手が及ばない、何か見えない大きな力による舵取りが行われているはず——ならば、設えるのは「奇跡の瞬間」を呼び起こすための環境だけでいい——自ずと、望む結果へと導かれる——その環境は、同時に、美しくなければならない——穏やかで心地よい時間を来場される皆さんに感じてもらわなければならない——そのために、自ら綴る音楽がそこにある——。
こんな妄想じみたストーリーが、徐々に僕の心の中を支配していった。 あらゆる「偶然」も、それが起きるに至った細かい条件を一つ一つ検証していけば、何らかの法則に則り導かれたもの…と解釈できるのかもしれない。
しかし、少なくとも僕自身は、約束されていなかった「あるとき」を、まさかこの瞬間に迎えられたという事実を、「奇跡」として捉えたい。 あるとき、ある街で、見知らぬ二人が偶然巡り会う——この作品で提示される、お互いに自律し展開していく音楽と化学反応は、そんな「未だ見ぬ二人」を表象する存在とも言えるだろう。
ときに寄り添い、ときに離ればなれとなり、いつかまた再び巡り会う…。この、偶然が生み出す物語は、そんなロマンティックなクライマックスへと誘われるに違いない。
こうした祈りにも似た思いを、この作品に託し《Muse The Chemistry》と命名した。
果たして今、化学の女神は、あなたに微笑みかけるだろうか? 作品発表にあたり、どうお知らせするべきか? 考えた結果、手紙を記すことにした。ぜひ一読いただき、ご来場願えれば幸いである。